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鶴見留美と八幡のSS

八幡×雪乃要素あり

オリキャラ、オリ設定注意

235: ◆s2YHmDOFCM 2012/12/18(火) 00:03:28.53 ID:uG2qG9pZ0
「キミのことが好きだ。付き合ってくれないかな」

放課後、夕日の差す中庭。目の前の男子生徒が、そう言った。

(またか……)予想通りの展開に、心の中でつぶやく。正直、気が重い。この後の展開が、容易に予想できるからだ。

これまでの人生…たかだか17年程度だけれど…の中で、何度も繰り返してきた。

自分を、もしかしたら傲慢かもしれない。と思う。けれど、心に浮き立つものがまるでなく、本心からそう思ってしまうのは自分でもどうしようもない。

爽やかな微笑みを浮かべながら、こちらの返事を待っている…確か、サッカー部のなんとかいう先輩。同級生の子が、カッコイイって騒いでた。確かに目鼻立ちは整っていると思う。

女子に広汎な人気があるところからして、きっと頭も性格も良いのだろう。だけど…

「ごめんなさい、それは無理です」

そう言って、頭を下げた。

237: ◆s2YHmDOFCM 2012/12/18(火) 00:45:58.29 ID:uG2qG9pZ0
「留美ちゃん、青葉先輩をフったんだって? 噂になってたよ」

翌日、親友の自由(みゆ)ちゃんから、早速噂が学校をかけめぐっていることを教えられた。青葉先輩…昨日の彼か。確かそんな名前だったと思う。

…やっぱり、と溜息をつく。 周囲に人影はないと思ったが、誰かがどこかから見ていたらしい。 その噂とやらがどういったニュアンスで語られていたのかも、想像はつく。きっとまた、いろいろ尾鰭がついた内容が面白おかしく語られ、あの先輩に気があった女子の間などでは「調子に乗っている」「お高くとまっている」などと陰口を言われているのだろう。

女子特有の、ベタベタした陰湿な嫉妬、悪意。男子からの好奇の視線や、下心が見え見えの親切。慣れてはいるが、気が滅入る。小学校時代のトラウマが、顔を覗かせそうになる。

こういった注目がイヤだからこそ、常々「今は恋愛に興味はない」と公言し、予防線を張ってきたというのに。


240: ◆TDvUu2LrPo 2012/12/18(火) 01:33:12.54 ID:uG2qG9pZ0
自由「どうして断ったの? 青葉先輩、カッコイイじゃん! 性格もいいし、狙ってる子もいっぱいいるんだよ? もったいない…」

嘆かわしい、と大仰に首を振る善良な友人に、曖昧な微苦笑を浮かべながら…慎重に言葉を選んで答える。

留美「私にはもったいないよ…それにほら、習い事もあるし、これから先、受験勉強もがんばらなきゃいけないから…正直、誰か特定の男の人と付き合うなんて、考えられないよ」

自由「う~ん、そっかぁ…そういえば常々、『いまは恋愛に興味はない』って言ってたもんね」

留美「…うん」

自由「じゃあ、誰かほかに好きな人がいるとか、そういうのじゃないんだ?」

留美「あ、当たり前でしょ」

少し、語気が強くなる。ちょっとわざとらしかったか…留美ちゃんの目がキラリと光った(ような気がした)

留美「……嘘だっ!!」

242: ◆TDvUu2LrPo 2012/12/18(火) 01:46:41.49 ID:uG2qG9pZ0
思わず、びくっと身が竦む。はっと我に返り、慌てて自由ちゃんの口を塞いだ。

留美「自由ちゃん、声が大きい…」

今は昼休みで、ここは特別棟にある『奉仕部』の部室。そうそう人が来る気遣いはないだろうけど、話している内容が内容だけに誰かに聞かれはしないかと冷や冷やする。

留美「それに、嘘って何を根拠に…ひゃう?!」

自由ちゃんの口にあてた右手の指をぺろりと舐められ、反射的に手を引く。

自由「この味は!……… 嘘をついている「味」だぜ……」

ドドドドド…と足で効果音を鳴らしながら、ドヤ顔で指摘してくる友人。容姿、性格ともにいい娘ではあるのだが、このようにたまに色々おかしいせいでクラスの中では浮き気味である。

留美「…べつに、嘘なんかついてないし」

243: ◆TDvUu2LrPo 2012/12/18(火) 01:50:30.82 ID:uG2qG9pZ0
すいません、今日はもう無理だ。
次回、鶴見留美の目から見た比企谷八幡という人物。

244: ◆TDvUu2LrPo 2012/12/18(火) 01:52:42.45 ID:uG2qG9pZ0
ちなみに、ルミルミはちょい役じゃなくて、今後このSSの中で準主役クラスを担ってもらいます。
ただし、原作での描写が少ないぶん、独自解釈が多くなりますのでご了承をお願いします。

247: ◆TDvUu2LrPo 2012/12/18(火) 02:01:35.12 ID:uG2qG9pZ0
ごめん、あと一言だけ…わたりんがツイッタで「自由が丘自由というキャラ名を考えたからあとは好きにしてくれ」と言ってたから、流用しようとしたんだけど…日本に、自由が丘という苗字は、調べたところ存在しなかったorz

277: 1 2012/12/19(水) 22:03:25.63 ID:EXvb/fLSO
自由「…ふ-ん、そう? まぁ、味で分かるのは冗談だけどさ。留美ちゃん、最近、時々どこか遠いところを見る目をして、溜め息ついてるよ? 無意識かもしれないけど」

留美「…えっ」

まさか…という動揺が表情に出たかもしれない。

自由「…お、反応あり。これじゃ、隠してもモロわかりですよお嬢さん」

ニヤリと笑う人の悪い顔を見て悟る。…しまった。ブラフだ。

留美「…自由ちゃん」

ここで怒ったらますます墓穴を掘る。クールに、クールに…

自由「ご、ごめん。ミートボールひとつあげるから赦して。美人が笑顔で怒ると、迫力が…」

失礼だと思う。だがとりあえず、取引に応じて手打ちにした。

278: 1 2012/12/19(水) 22:18:52.06 ID:EXvb/fLSO
「う-す」

部室のドアが、急に開いた。

留美「麗ちゃん…いつも言ってるけどノックを」

自由「あ、うららちゃん、やっはろ-」

奉仕部の最後の一人、三浦 麗(みうら うらら)ちゃんだった。私たちは、お昼休みは大抵、ここで一緒にお弁当を食べている。

自由ちゃんといい、麗ちゃんといい、私以外の部員にはノックという文明人として身につけていてしかるべき習慣がない。だから、さっきの様な話をする時は、冷や冷やするのだ。急に入ってくるから…
顧問の平塚先生からしてそうなのだから、もうどうしようもない。

今の話は、聞かれていなかっただろうか? こっそりと麗ちゃんの様子を伺う。

279: 1 2012/12/19(水) 22:36:56.77 ID:EXvb/fLSO
麗「まぁまぁ、いいじゃん…ふぅ、お腹すいた。メシ、メシっと」

どうやら、何も聞いていなかったらしい。私の抗議を適当にあしらい、鼻歌交じりに弁当の包みを開く様子をみて胸を撫で下ろす。

彼女は、腹芸ができるタイプではなく、すぐに感情が表に出る。直情的だが面倒見がよく、華やかな容姿と相まってクラスの女子カ-スト最上位に位置する人物だ。

油断したところで、彼女が話しかけてきた。

麗「留美、なんかやらかしたの? 教室に残ってた連中…なんてったっけ、ほら」

何人かの、あまり仲がよくない女の子たちの顔が浮かぶ。

麗「あいつらが、ひそひそ陰口言ってたから、ちょっとシメといたんだけど。あんた、何かしたの?」

280: 1 2012/12/19(水) 22:51:46.10 ID:EXvb/fLSO
自由「…実はかくかくしかじか」

どう答えようか迷っているうちに、止める間もなく自由ちゃんが全部話してしまっていた。さっき、安心した意味がまったくなかった…

麗「…なるほどね。留美、実際のところ、どうなの? 好きな人…本命がいるんじゃない?」

留美「…い、いないから」

彼女たちは、大事な友人だと思っているが、これだけは言えない。理由は、いろいろある。
…私は、彼女たちが秘密を言い触らしたり漏らしたりするかもしれないとは思っていない。おそらくは。小学生時代の苦い記憶が、ことさら自分を秘密主義にさせているのかも、とちらりと思うが、多分、それだけではない。これは、独占欲に近い感情…

281: 1 2012/12/19(水) 23:04:01.18 ID:EXvb/fLSO
つまりは。「あの人」のことを他人に知った顔で語られたくない。「あの人」の良さを知っているのは、私だけでいい。私だけが、あの人の側に居ればいい…

そんな、エゴイスティックな、醜い感情。それを自分の中に自覚したときには、愕然とした。

友人たちの追求を必死で誤魔化しているうちに、チャイムがなる。ほっとしながら話しを打ち切り、自由ちゃんと麗ちゃんに教室への移動を促した。

自由「…留美ちゃん」

留美「…?」

戸締まりのために室内に残っている私に、自由ちゃんが去り際、声をかける。

自由「…さっきの溜め息の話し、ウソじゃないよ?」

思わず、息が止まる。

自由「無理にとは言わないけど、もし力になれるようなことがあれば言ってね。相談に乗るから。それだけ」

ニコッと笑ってドアの隙間から顔を引っ込める友人に、数秒の間を置いて小さく

「……ありがとう」

と声をかける。届いたかどうかは、わからない。

282: 1 2012/12/19(水) 23:14:19.34 ID:EXvb/fLSO
…そうだ。彼女の指摘は、正しい。私は、恋をしている。

だけど、それはきっと叶わない恋。あの人の隣には、もう、別の人がいた。私とどこか似通った、けれど遥かに成熟したすごく、綺麗なひと。

一目見たときに、わかってしまった。恋人なんかじゃない、と否定していたが、女の子のカンがこと、こういったことで外れるとは思えない。間違いなく、このひとも私と同じ感情を彼に対して共有している。そして彼もまた、彼女のことを深く理解し、愛しているのだとわかってしまった。

もしかして、彼が自分に優しくしてくれたのは、自分が、どこか彼女に似ていたから、なのだろうか。それは、イヤだ。堪えられない。

283: 1 2012/12/19(水) 23:19:41.02 ID:EXvb/fLSO
どうして、私の方が先に彼と出会わなかったのか。どうして私は、彼よりこんなに年下なのか。心の中で運命を呪いながら、窓の外を見る。彼との出会い…いや、後にわかったことだが、正しくは再会を思い出す。

誰もいない、校庭。寂しい景色だった。ほんの一年と少し前、私は、そこに居た。

284: 1 2012/12/19(水) 23:21:22.23 ID:EXvb/fLSO
教育実習編導入終わり。

現在の時間軸から、過去に飛びます。今日は申し訳ないがここまで

288: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/20(木) 01:16:33.51 ID:h5xBTAAk0
八幡のことを他人に知った顔で語られたくないって6巻のゆきのんが抱いてそうな感情だな

289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/20(木) 06:02:37.44 ID:NYDtlYJDO
後輩達の物語って楽しそうでいいな
うららちゃんなんだか見覚えがあるような(すっとぼけ)

299: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/20(木) 20:39:00.93 ID:bqXPodA10
…昨年の5月。私が総武高校に入学して、1ヶ月半ほど経ったころだ。私は、クラスで孤立していた。
原因は、かなりはっきりしている。とある個人的事情があり、私は入学式から2週間以上、登校できていなかった。
入学から半月といえば、人間関係の基礎が固まる重要な時期である。登校し始めた頃には、すっかりクラス内のグループは出来上がっており、私はクラスに溶け込むための初手で痛恨の失敗を犯したことを悟った。その遅れを取り戻せないまま、学校はゴールデンウイークに突入し、そうして、今の立ち位置が半ば、固定されてしまった。悔やんでも、どうしようもなかった。

孤立と言っても、小学校時代のように明らかな悪意を浴びせられたり、意地悪をされるわけではない。もちろん、直接的な暴力もない。その辺は、さすが県下有数の進学校だけある。話しかければ、返事はしてくれる。むしろ礼儀正しくさえある。

ただし、そこにははっきりとした距離があり、壁があった。それを取り払うすべを知らぬまま、私は5月の半ばを終えようとしていた。



301: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/20(木) 21:17:46.84 ID:bqXPodA10
ここで少し、私…鶴見 留美 自身の身の上について語ろう。

私には、父がいない。私の家は、いわゆる母子家庭だった。物心ついて以来、会ったことのない父には既に妻子があり、
キャリアウーマンであった母はシングルマザーとして私を生み、育てた。こういうと悲惨な家庭環境を想像されそうだが、
経済的な不自由を感じたことはない。母の稼ぎは相応にあり、また父も経済的には何某かの援助をしてくれていたらしい。
ただし、時たま世間から「そういう目」で見られていることは子供ながらに感じていた。

母は、多忙ながら私がさびしい思いをしないよう、肩身の狭い思いをせぬようにと、随分気を使ってくれていた。
私に着せるものにも随分気を遣い、色々と習い事もさせた。「友達と仲良くやっているか」が口癖だった。
そんな母には感謝もしているし、愛してもいる。

302: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/20(木) 21:39:10.36 ID:bqXPodA10
だから、そんな母や家庭環境のせいにはしたくないけれど。自分が、年の割にかなり、捻くれて育ってしまったことは否定できない。
小学校の頃から、周囲の同年代の子供たちが幼く、バカだと感じることがしばしばあったし、それが態度にも表れていたと思う。
今にして振り返れば、何のことはない、そんな自分もただの年相応のガキにすぎなかったのだが。そんな小学校6年生の…あれは、夏。同じように周囲から孤立したことがあった。
いや、同じようにと言えば語弊があるか。あれは明らかに悪意に基づくイジメであり、また残酷な本能に忠実な子供のやることだけに、はるかに容赦なく、陰惨なものだった。
当時は、自分の心を守るために認めようとしなかったが、今にして振り返ると、私は相当に傷つき、参りかけていたと思う。

そんな状態で参加した夏休みの林間学校で、ちょっとした事件があった。唐突なそれは、何人かの同級生の心にトラウマを。幼い私の心に、ちょっとした変化のきっかけを与え、
私の周囲の閉塞した人間関係を打破することになった。しかし、既にかなりの部分の記憶が曖昧になっているが今思い出しても不可思議で、よくわからない事件だった。

304: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/20(木) 21:55:11.04 ID:bqXPodA10
いくらかの教訓を得て成長した私は、中学ではそれなりにうまくやり、何人かの親しい友人も作った。ただ、彼女たち…全員が女性だ。私はこれまで一貫して、同年代の男子に興味が持てなかった。父親の愛を知らずに育った女性はファザコンになる、なんて俗説を信じたくはないけれど…いけない、話がそれた。

中学時代の友人たちは、皆、別の高校に進学した。今もたまに、メールのやり取りやそのうち集まろうだなんて話をすることもあるけれど、去る者は日々に疎し。だんだん、疎遠になっていくのはどうしようもなかった。

私は新しい環境で、一から人間関係を再構築する必要に迫られたのである。そして、その緒戦で完全に躓いてしまった。…今になって痛感するが、私は決して、人間関係の構築に長けた方ではない。人当りはかなりキツイ方だと自覚しているし、特に男子に対しては身構えてしまうところがある。だから、話しかけにくく、壁を作らせてしまっているのだと理解はしているのだが…今更そう簡単に、これまで培ってきた性は変えられない。

305: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/20(木) 22:04:42.21 ID:bqXPodA10
そんな、八方ふさがりの状況で迎えた、5月も後半のある日。私は、彼に出会った。
否、再会した。

309: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/21(金) 00:17:05.91 ID:EJnrx2HY0
お昼休み。校庭隅のテニスコート、その正面にある保健室脇が私の昼食時の指定席だった。教室に残っていても、一緒に食べる友達がいない。周りが友達同士で盛り上がっている中で一人、お弁当を広げるのは、なんというか惨めすぎて精神的に非常に堪えるものがある。

そんなわけで、校内で一人で食事をとれてロケーションの好い場所を探していたところ、ここにたどり着いたというわけである。
だが、これまで誰も来ず、私の独占となっていた聖地に、今日は先客の姿があった。

310: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/21(金) 00:27:44.88 ID:EJnrx2HY0
留美「……誰?」

背広を着た、20歳そこそこと見える男性が、いつもの私の指定席に腰掛け、弁当を広げてぬぼ~っと空を眺めていた。手には、自販機で買ってきたと思しきジュース。時間帯とシチュエーションからして、彼の目的は私と同様だろう。だが、生徒には見えず、教師にしては若すぎる。有体に言って、かなりの不審者だった(特に、爽やかなロケーションにふさわしからぬ死んだ魚のような目つき)。警備員を呼ぶべきだろうか?

「………ん?」

彼が、こちらを振り向く。…不審者に、不審な目で見られた。本当に通報しようか、と反射的に思ったが、心に何か引っかかるものがある。
なんだろう…この感覚…既視感? どこかで、会ったことがあるだろうか。

「俺は、今日から教育実習で来てる実習生だ。そっちこそ、誰だ? ここの生徒か?」

留美「…見ればわかるでしょ」

312: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/21(金) 00:48:15.92 ID:EJnrx2HY0
そういえば、今週だったか。HRで、何人か教育実習生が来ると言っていた気がする。うちのクラスでは、まだ実習生受け持ちの授業がなく、見る機会がなかった。

「…ま、そりゃそうだが」

彼は私の突っ慳貪な答えを聞いて、ふ、と苦笑する。いくらなんでも、この態度はまずかったか。第一印象があまりに不審者そのものだったために、つい、刺々しい態度をとってしまった。一応言い訳しておくが、いくら私でも、普段はもう少し目上の人間には礼儀正しいのである。
だが、不審者な実習生は、こんな扱いにも慣れているのか、特に腹を立てる様子もない。

留美「…そこ、私の場所なんだけど」

??「べつに誰の場所でもないだろ。まだスペースはあるんだから、好きに座れよ」

また、ついやってしまった。そして、正論で返された…正論とはわかっているが、なんだか気に入らない。

313: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/21(金) 00:59:17.03 ID:EJnrx2HY0
留美「…もうちょっと向こういってよ」

??「…へいへい」

私の横柄な態度に、一瞬、きょとんとした表情(邪気のない表情をすると、存外顔立ちは整っている)を見せたが、素直に体をずらす実習生。
1mほどの距離をおいて座ろうとしたが、

??「待て、もう少しずれろ」

と声をかけられた。私の不審な表情を見て、彼は黙って私の足元を指差した。

そこには、小さな黄色い花。少し時期の遅い、タンポポだった。

314: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/21(金) 01:18:51.57 ID:EJnrx2HY0
彼は、この花が踏みつぶされるのを気にかけたらしい。見た目に似合わず、意外に繊細な人なのだろうか。
内心で若干、評価を改めつつも、

留美「…べつにそんな花、珍しくもないでしょ」
つい、憎まれ口をきいてしまった。彼は肩をすくめて言い返す。

「こんな場違いな場所で時期外れの時期に、空気も読まずにけなげに咲いてるんだぞ。気づかれもせず踏みつぶされて終わりじゃあんまりだろ」

…変なやつ。そう思ったが、素直に花を避けて座る。タンポポの花を挟んで、1m20㎝が私たちの距離。
彼はそれきり何も言わず、無言でストローを咥えながら空を見上げている。五月晴れの、良い天気に私もつられて空を見上げる。海からの潮風が、ゆっくりと白い雲を押し流していく。

留美「…ねぇ」

私の方から、声をかける。少し、彼に興味がわいた。


315: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/21(金) 01:45:28.25 ID:EJnrx2HY0
「私は淋しい人間ですが 、ことによるとあなたも淋しい人間じゃないですか」

留美「…なに? それ」

「夏目漱石の『こころ』って小説の一節だよ。現代文の教科書にも載ってたんだけどな、もともとは」

翌日も、私たちは特に約束を交わしたわけでもなく、同じようにタンポポの花を挟んで座り、言葉を交わしていた。

いつもここで食事を取っているのかと聞かれ、そうだと答えると、返ってきたのがこの言葉である。

「俺もここのOBなんだけどな。ぼっちだったから、いつもここでメシくってた。そんで、お前もそうなんだろうと思ったのさ」

彼に言わせれば、孤独な人間の行動パターンは似通ってくるのだそうだ。なぜなら、選択の幅が極端に少ないから。いわく、ぼっちの収斂進化。あまり、受け入れたくはないが、確かに今の私はぼっちといわれても否定できない。

「べつに、行動パターンが似てるから仲良くなれるわけでもないけどな。互いに相容れないからこそのぼっちだ」

苦々しい表情をしているだろう私に、彼がにやりと笑いながらさらに余計な見解をかぶせてくる。こちらも別に、仲良くなろうなどと考えてはいないが、なんだか失礼だ。やっぱり、変な奴…

316: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/21(金) 02:47:26.22 ID:EJnrx2HY0
いしきがとんだ。じかい、げんさくのあのひととうじょう

317: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/21(金) 03:50:38.60 ID:pJ4hesc10
これ4年後くらいだろ?
ってことは静ちゃん・・・

321: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/21(金) 17:01:04.83 ID:Yw8DPZRDO
ルミルミのお母さん説のある鶴見先生と予想

322: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/21(金) 17:46:16.43 ID:mjQwSK270
戸塚か? 戸塚なのか?

324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/21(金) 18:13:33.35 ID:w4EniKsM0
葉山だよ

333: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/23(日) 02:03:10.31 ID:IMxfceuY0
「ぼっちには、2種類いる。自ら望んでなったぼっちと、そうでないやつと …どうやらお前は後者みたいだな」

留美「………」

変なやつが、こっちをじっと見つめてくる。男子から注目されるのは別に慣れているが、この視線は普段受けているそれとは少し質が違った…うまく説明できないけれど、なんだか安心する。真面目な表情をすると、やはり意外に美形だ…まて、私は何を考えているのか。

「……ああ、話くらいは聞いてやるぞ。主に、実習の評価のために。基本的に深く関わる気はないから期待されても困るが」

知らないうちにじっと見つめ返していた私から視線を不意にそらして、率直すぎるというかわりと最低のことを言い出した。正直なのか、それとも照れているのか判断がつかない。

我に返り、しばしそのまま考える。確かに今の状況を誰か大人に相談するというのはありだろう。とはいえ、母親に話せば心配させる。教師に話せば、少し問題が大きくなりそう。この変な人は、こういった状況についてなかなか経験豊富そうなことを言っていたし、数週間たてば学校から去る人間で後腐れもない。人選としては適切かもしれない。

一瞬迷ったが、話すことにした。私が今、おかれた状況を……

344: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/23(日) 22:34:58.41 ID:IMxfceuY0
「……なるほどな」

事情を話し終えると、彼はどこか呆れたような声音で呟いた。入学直後から、登校できなかった説明の箇所では、複雑そうな表情を見せていたが、あるいは似たような経験があったのかもしれない。
しばらく黙って何か考えていたが、やがて、こちらを見て話しだした。

「……まぁ、基本的に何もしなくていいだろ。どのみち、今の状況はそう長くは続かないと思うぞ」

……どういうことだろうか。

「たぶん、何かきっかけがあれば、遠からずクラスに溶け込めるようになると思う。周囲の奴も、お前に興味はあるし、話したいとも思ってるはずだ」

……何を根拠に

「根拠か? ……そうだな。ぼっちマイスターとしての、俺のカンだ」

にやりと人を食ったような笑みを浮かべると、彼はそう断言した。
他人事だと思って、適当なことを言わないでほしい…そう言おうとしたが、思いとどまる。不思議と、その言葉には自信が感じられ…信用できるように思えたのだ。

346: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/23(日) 22:57:44.43 ID:IMxfceuY0
「焦って無理をすると、かえって色々やらかす危険が高い。焦らず、おおらかに構えていればいいさ……それに」

? ……それに、何だというのか。

「孤独それ自体は、別に悪いことじゃない」

確信的な口調で、彼はそう断言した。 ……少し、どきりとして、彼の顔を改めて見直す。
私の視線に気づいたのか、彼は言葉をつづけた。

「いつでも、誰かと一緒にいなければならない、皆と仲良くしなければならないなんてのは、ただの強迫観念だ。現実には、人間はそんな風にはできていない。誰にだって相性の悪い相手はいるし、そういうことができない奴だっている。それを強制しようとするから、いろいろな軋轢が生まれるんだ」

……なんとなく、わかるような気はするけれど。

「仲間と一緒にいることでしか学べないことっていうのは確かにある。けれどまた同様に、孤独の中でしか学べないことっていうのも確かに存在する。
 ……ぼっちであることを、引け目に感じる必要はない。これから先も、たとえ、友人ができた後でも、必ず、孤独に、自分自身と向き合わなきゃならない場面はくるんだ。今は、それを学ぶチャンスだと思えばいい」

その言葉には不思議と説得力があって、思わず言いくるめられそうになる。 
……だけど、私には、孤独をどうやってやり過ごしていいのかまだよくわからなかった。

347: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/23(日) 23:19:07.28 ID:IMxfceuY0
「……ま、そうだな。ぼっちの道は長く険しい……精進しろ、というのはさすがに無責任なので」

彼は、立ち上がると、ズボンの埃を払う。

「……特別サービスで、少しだけ手助けしてやるよ。たしか、F組だって言ってたよな?」

そう。確か、昨日の会話の中でクラスのことは教えた気がする。

「じゃあな。期待せずに待ってろ」

手をひらひら振りながら、立ち去ろうとする。

留美「……待って!!」

その背中を、思わず呼びとめた。 ……さっきから、昨日からずっと感じている感覚、やっぱりこれは……

留美「私、鶴見 留美!」

今まで、お互いの名前も知らなかった。名乗ったのは、これが初めてだ……そのはずだ。

「……鶴見 留美?」

彼が、少し驚いた様子で振り向く。私の顔を、じっと見つめてきた。そのまま数秒。自分の顔が、紅潮してくるのが分かる。

「……そうか。あだ名はルミルミで決まりだな」

そういって、彼は笑った。

351: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/23(日) 23:48:55.79 ID:IMxfceuY0
留美「変なあだ名、勝手につけるな! ……それより、そっちの名前も教えてよ。名乗ったでしょ、私」

さっきから、どんどん、胸の感覚が強くなってくる。私は、確信しつつあった。

八幡「……そうだな。俺は……いや、やめておこう。どのみち、すぐにわかるから、待ってろ」

はぐらかされて、思わず焦れる。私は……私はきっと

留美「私たち、以前、どこかで会っている…そうでしょ?」

この、いまやはっきりと感じる、無視しえない既視感。その答えはそうとしか思えない。だが……

「……どうも君の顔には見覚えがありませんね。人違いじゃないですか」

彼は、しばらく黙って……苦笑するような、懐かしむような表情で私を見た後、妙に芝居がかった調子でそんなことを言った。 ……私の勘違い、だったのだろうか?

留美「……そう」

心中で失望を感じながら、教室へ戻ろうとする私の背中に、今度は彼が声をかけてきた。

「……ルミルミ、本は好きか?」

留美「……え、べつに嫌いじゃない、けど」

唐突な問いに、戸惑いながら答える。それほど多くの本を読むわけではないが、読書は決して嫌いじゃない。だが、どういう意図の問いだろう?

「……ぼっちの時間の使い方としては、読書は悪い選択じゃない。適当に何かお勧めを見繕って貸してやるよ」

それだけ言うと、彼は去っていく。

留美「あ……うん……」

それだけしか言えず、彼の背中を見送った。その姿が角の向こうへ消え、私は空を見上げる。

ひゅう、と風の音が聞こえた。風向きが変わり、海からの潮風が、陸から海へ吹き抜ける風に変化する。

私の学校生活も、これから何かが変わっていくのだろうか?

352: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/23(日) 23:51:52.21 ID:IMxfceuY0
…先ほどの彼の台詞も、夏目漱石の「こころ」からの引用だとわかったのは、その本を彼から借りて読んだ後だった。

続く

373: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/25(火) 02:21:57.85 ID:aoo2haUR0
休み時間。クラスの自分の席で、あいつに借りた本を読みながら、教室内の会話を聞くともなく耳に入れていた。

相変わらず誰も、私に話しかけてくる生徒はいない。 …だが、まぁいい。忠告に従って、いちいち焦らないことにしたのだ。

読書というのは、確かにぼっちにとってはよい時間のつぶし方かもしれない。気もまぎれるし、見た目にもいかにも孤立している、という痛ましさが減っている…ような気がする。彼が言っていたことを思い出す。

~回想~

「……だけどな。教室内で読むときには、本の選択は注意しろよ。ラノベとか漫画とか、面白いのも結構あるけど…教室でマニアックなラノベ読みながらニヤニヤしてたら、ぼっ値のパラメータが上昇して、戻ってこれなくなるぞ」

留美「……誰が教室でそんなもん読むか! そもそも、何よそのパラメーターって」

「読んで字のごとく、そいつのぼっちランクを表す数値だ。訓練すれば、見えるようになる…… だいたいルミルミで1200くらい。DBならサ○バイマンクラスだな」

留美「……誰がサイバ○マンよ」

「気に入らないか…じゃあ、ヤ○チャで」

留美「そういう問題じゃないし……それにどうせならもう少しマシなのにしてよ」

「わがままだな…ならセ○ゲーム時点のチャオ○さんで。これはかなり高得点だぞ。十年以上の相方に置き去りにされるハイレベルぼっちだからな」
 
 そういえば、○ャオズは天津飯以外の仲間と会話しているのを見たことがないような……ぼっちなのか本当に。それなのに「チャ○ズは置いてきた。はっきり言ってこの戦いにはついて来れそうもない」 BY天さん

留美「……殴っていいってことだよね? もう殴るよ?」

「……狼牙風風拳w いて! おい、ま…いて! 本当に殴るな」

~回想終了~


……本当に変なやつ。なんなんだろうか、アレ。 思い出すと頭痛がしてくる。一度目を閉じて、瞼をもみほぐしてから、また読書を再開する。
……変なやつだけどでも、やっぱりたしかに……どこかで……

「ねぇ、知ってる? いま、来てる教育実習生のこと!」

教室のどこかで聞こえたそんな声に、思考とページを繰る手が止まった。


374: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/25(火) 02:43:20.92 ID:aoo2haUR0
いわく。この高校のOBで、いまは東京の私立大に通っている云々 ……もしかして彼のことか。
すごく爽やかで美形らしい ……なんだ、別人か。 美形はともかく、彼は私の知る限り爽やかという単語からはもっともほど遠い人物だ。

次の英語の授業を、その噂の爽やか王子が受け持つとか。まぁ、あいつでないならどうでもいい。確か彼は国語が担当だと言っていたが、こちらもそろそろ授業を受け持つはずだ。さすがにその時になれば、名前素性もわかるだろう……

黙って耳を傾けていると、ほかにもいろいろな情報がわかった。今、来ている実習生は、女性1人、男性2人。女性も総武高校のOGだそうだ。なんでも、全員クラスの三浦さんのお姉さんと昔、クラスメートだったとか。本当なら、かなりの偶然だ。

……まてよ、ということは、三浦さんからお姉さんに聞いてもらえば、あの人のことがもう少しわかる? 一瞬、そんな考えが脳裏に浮かぶ。だが……

……もちろん無理に決まっていた。それが気軽に頼めるようなら元からこうなってはいない。

375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 10:01:42.71 ID:2Ukyvz1DO
爽やかな美形とかつまり英語がハヤハヤ
国語がヒッキー
女性は……エビーズかサキサキ辺りかな

376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 20:02:01.19 ID:N7edPuOao
エビは国語を教えてるイメージがある

393: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/27(木) 00:08:58.16 ID:gOLXGZ6a0
八幡「ふーん、ルミルミは中学時代はテニス部だったのか」

留美「そうだけど……ルミルミって呼ぶな」

こうして過ごす、何度目かの昼休み。幸い、今日も天気はいい。

八幡「高校ではもうやらないのか? やっぱり、仲間を作りたいなら部活に入るのが一番、手軽で手っ取り早いと思うぜ」

留美「……ムリ。ほかにちょっと……やってることがあるから」

こんな言い方をしたら、何をやっているのか追及されるだろうか。そしたら、どうしようか……「あのこと」を話してしまおうかという誘惑に駆られる。でも、やっぱりだめだ。笑われるか、変な目で見られるに決まっている。

八幡「そうか。なら仕方ないな」

……自然にスルーされた。葛藤したのがバカみたいだ。

留美「……あんたは、何かやってたの?」

八幡「ん……まぁ、なんつーか……やってたといえばやってたんだが、説明に困るな」

珍しく、困惑した様子をみせる。その様子を見て、少し嗜虐心が刺激される。

留美「説明できないようないかがわしい活動してたんだ」

八幡「……………いや、そういう訳じゃないが」

否定までに随分と間があった。いったい、どんなことをしていたのだろう。

留美「大学では? なんか、サークルとかいろいろあるんでしょ」

八幡「とある零細サークルに、名前だけ所属してる。 ……サークル自体、殆どまともな活動してないけどな」

大学では、試験の過去問など様々な情報がサークルなどのネットワークを通じてやり取りされるため、実利を重んじて、極力束縛されないサークルを選んだのだという……何をやっているのかは言わなかった。これもまた、いかがわしいサークルとみえる。隠し事の多い人間は、信用できない。私は自分のことを棚に上げて、そんなことを考える。私も多少、あれだが、こいつ程ではないと思う。彼はまるでいかがわしさの固まりだった。目も腐ってるし。

八幡「………ところでルミルミ」

留美「ルミルミ言うなって……何?」

八幡「……さっきから気になってたんだが、何で、ずっとこっちに背中向けてんの?」

留美「……あ、あんたの顔を直視したくないから」

八幡「……なにそれひどすぎる。もう死のうかな」

394: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/27(木) 00:20:02.59 ID:gOLXGZ6a0
私は、結構、内心が顔に出るタイプだ。今、面と向かえば、動揺を必ず悟られるという自身があった。

いかがわしさの固まりたるこの男…比企谷八幡が隠していたとある秘密を、今の私は知っている。

……いや、秘密、といえば大げさか。本来それは、彼にとって弱みになるようなことではない。むしろそれを、隠していた理由こそ、私は知りたかった。
背中を丸めながらパン屑にたかる蟻と戯れている彼の方を、そっと見る。溜息を吐いている姿を眺めながら、私はそれを知るに至った経緯を思い出していた。

395: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/27(木) 00:50:47.55 ID:gOLXGZ6a0
女性の実習生……海老名姫菜という名前らしかった。ここでは海老名先生と呼ぶが、その彼女の担当する世界史が実習生による最初の授業だった。
眼鏡をかけているがかなり垢抜けた美しい女性で、男子が嬉しそうに騒いでいた。 ……バカばっか。
しかし私も彼女の容姿を見て、わずかな引っ掛かりを覚えていた。 つい最近感じた感覚、これは…既視感だ。この人にも、どこかで会ったような気がする? まさか。いくらなんでも立て続けに…

私は、今の状態に焦れて少し情緒不安定になっているのだろうか。だとすれば、自分で思っていたより私は精神的に脆かったらしい。ショックだ……

私の葛藤をよそに、彼女の授業が進んでいく。ギリシア、ローマの文化のあたりだ。内容はまとまっており、なかなかこなれてもいるように思われた。
容姿だけでなくかなり頭もよい女性らしい。時に、雑談などもはさみ、生徒たちの関心を惹こうとする工夫が見て取れた。

海老名「同性愛は、現代でこそタブーとされていますが、古代においては、むしろ高貴なものとして堂々と市民権を得ていました。たとえばギリシアでは同性愛こそ理想的な愛の形とまで(中略)紀元前4世紀、テーベという都市国家にあった『神聖隊』という軍隊は、300人の互いを愛する愛人たちで構成されていて(中略)この『神聖隊』はカイロネイアの戦いで勇敢な戦いの末、全員が壮烈な戦死を遂げますが、敵のマケドニア軍を指揮していたフィリッポス王は相並んで倒れ伏す彼らの屍を見て、涙を流しながら『この人々がなしたことに些かでも恥ずべきことがあったと疑うような連中は、おそらく惨めな死を迎えることになるだろう』と(超略)つまり、ホモが嫌いな女子なんていません! ぜひ皆さんも」

キーン…コーン…カーン…

    ああ、まだ、まだ途中なのに!!」

無情のタイムアップで、海老名先生が退場させられていく。委員長がほっとした表情で、すかさず授業終了の礼をとる。

……いろいろ訂正する。なんというかもう、大半の生徒がドン退きしていた。一部で、目を輝かせている生徒もいたが、もしかしたら彼女の隠れ同志だろうか。

396: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/27(木) 01:20:51.95 ID:gOLXGZ6a0
次の、英語の授業に現れた実習生……噂の爽やか王子、葉山隼人先生。彼の姿を見て、女子たちがざわめく。

葉山「みなさん、はじめまして。葉山隼人です。この総武高校を3年前に卒業したみなさんの先輩にあたりますが……」

都内のK大学の法学部に属するという経歴。整った容姿、人をひきつける雰囲気。なるほど、学校中の女子たちが噂するのも頷ける。だが私は、それどころではなかった。思い出した。思い出した!


小学校6年生の夏休み。林間学校。苦い記憶と、状況を変えるきっかけになったあの不可解な事件。
「俺は葉山隼人、よとしくね」「カレー、好き?」「……半分は見逃してやる。あとの半分はここに残れ。誰が残るか、自分たちで決めていいぞ」「……あと二人。早く選べ」「残り二十秒」

必死でデジカメのフラッシュを焚いて、逃げ出した。あのときの、高校生のお兄さん。さっきの海老名先生も、もしかしたらあの時の高校生のお姉さんの中にいなかったか。そして……

「特殊で何が悪い。英語で言えばスペシャルだ。なんか優れてるっぽく聞こえるだろ」「数値はどうでもいいんだよ。要は考え方の問題ってことだ」「惨めなのは嫌か」

あの腐った目が、完全に記憶と一致する。

「比企谷八幡だ」

そう、八幡。確かそれが、彼の名前だった。

397: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/27(木) 01:33:30.07 ID:gOLXGZ6a0
「彼女はいるんですか~?」「……ごめん、それはノーコメントで」
きゃいきゃい騒ぎながら、葉山先生に色々な質問を浴びせるクラスメートの女子たちと、苦笑気味に受け流す葉山先生。その盛り上がりから完全に距離を置いて、立てた教科書で顔を隠しながら私は考え事をしていた。当時のトラウマのせいか、直接顔を合わせることに抵抗があった。
…さすがに、一目であのときの小学生とは気づかないだろうが。葉山先生の視線が、一瞬私をとらえた。 ……まずい。目を合わせないように顔をそらす。しばらく怪訝な目で見られていたようだが、数秒して視線は離れた。

そのあとの授業は、わかりやすく面白いとクラスメートたちには好評だったが、私はまったく中身を覚えていなかった。頭の中では、すぐにも彼をつかまえて色々なことを確認する算段を立てていた。

……あのときの事件の真相。葉山先生に直接確認するのは怖い。だが今になって思い返すと、私のカンでは、あの比企谷八幡という人物が真相に深く関わっていたのではという気がするのだ。授業が終われば昼休み。私はいつもの場所で待つのももどかしく、校舎内に彼の姿を探して教室から飛び出した。

398: ◆AVHMMTVI2Aor 2012/12/27(木) 01:43:26.79 ID:gOLXGZ6a0
……職員室から少し離れた、あまり人の来ない自販機の傍に、彼の姿を認めた。だが、声をかけようとして、彼が一人ではないことに気づく。少し離れた位置に、クラスメートたちから何とか一時離脱したらしい葉山先生の姿があった。

思わず立ち止まる。と、誰かに手をひかれて、廊下の角に引っ張り込まれた。振り向くと、先ほど世界史の授業で見た顔が…

留美「……海老名先生?! どうして……」

海老名「やほー☆ たしか、鶴見留美ちゃん、だよね? その様子だとわたしたちのこと、覚えてたみたいだね」

留美「……思い出したのは、ついさっきです。あの、先生たちは……」

海老名「しっ、見つかるから……質問は後で、ね?」

にっこり笑いかけられ、思わず頷いてしまう。
…と、自販機の横で、八幡と葉山先生が、何やら会話を始めた。思わず、海老名先生と並んで隠れる形で、それに耳を傾ける。

404: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 05:28:29.50 ID:DMxbT1gDO
エビーズ……完全に趣味に生きてるな

414: 1 2012/12/28(金) 00:40:44.74 ID:oHxcQgnL0
八幡「……ほい。こんなところで話に付き合ってもらって悪いな」

八幡が、自販機から取り出したジュースをひとつ、葉山先生に放ってよこした。

葉山「いや、別にいいさ。しかし、意外だな。避けられてるかと思ってたよ」

受け取りながら、苦笑気味に返す葉山先生。

八幡「まぁな……まさか、こんなところでまた一緒になるとは思ってなかったぜ」

葉山「つくづく、おまえとは縁があるな」

肩を竦めあいながら、それぞれジュースを開ける音が時間差で響いた。

八幡「俺にとっちゃ迷惑な話だ。知ってりゃ時期をずらしたのに。また、引き立て役じゃねぇか。つーかそれ以前だけど」

葉山「相変わらず愛想のない奴だ…よせよ。お前に引き立て役とか言われたら、こっちの立つ瀬がない。厭味にしか聞こえないぞ」

ジュースに口をつけながら数秒の沈黙。

葉山「……比企谷。これ、甘すぎるぞ」

八幡「何だ、まさか千葉県民のくせにMAXコーヒー初めてか?」

葉山「……いや、そうじゃないが。なんだ? これ」

八幡「新発売の練乳増量タイプ、MAXコーヒーXYZだそうだ。まだ飲んだことはなかったが…そうか、さすがに甘すぎるか」

葉山「……お前な」

奢るとみせかけて、さらりと毒見をさせていた。最悪だあいつ。 ちらりと海老名先生の方をみると、明らかに様子がおかしい。至福の表情で、自分の身体を抱えて身をくねらせている。大丈夫だろうかこの人…

415: 1 2012/12/28(金) 01:19:34.97 ID:oHxcQgnL0
それにしても、あの二人、どういう関係なんだろう。ただの友人というのとも違うような…なんだか、不思議な距離感だった。

葉山「……それにしても、お前が教師志望とは知らなかったよ」

どこか楽しげな口調で揶揄する葉山先生。先ほどの授業のときとは、印象が違う。普段はこうなのだろうか?

八幡「第一志望はもちろん別だ……俺のことはいいだろ。そっちこそ、在学中に司法試験まで通ったくせに、今更なんで教育実習きてんだよ」

葉山「……そうだな。昔からこういうのに、ちょっと憧れてたんだ」

八幡「……まぁ、お前なら、教師になっても大人気の先生になるんだろうけどな。俺がここに採用お願いすることになったら余所へ行ってくれ。競合したくないから」

葉山「……それもいいと思うけど、たぶん、無いだろうな。卒業したら、親父の弁護士事務所で修行することになると思う。 ……むしろ俺は、お前の方こそいい教師になれると思うんだがな」

八幡「おいよせよ。お前にそんなことを言われるとどうも落ち着かない」

葉山「お互い様だ、それは」

八幡「心外だな…俺は昔から一貫して、お前のことを評価してるし信頼してるぞ? ただ、存在が目障りで気にくわないだけで」

葉山「……そりゃ奇遇だな。こっちもまったく同感だ」

八幡が仏頂面で言った言葉に、葉山先生が愉快そうに笑っている。本当に、どういう関係?
海老名先生が、鼻血を手で抑えながら、悶絶している。アレすぎてクラスの男子たちには見せられない姿だ……ポケットからティッシュを取り出して差し出した。

416: 1 2012/12/28(金) 01:58:11.08 ID:oHxcQgnL0
葉山「……それで? まさか新製品の試飲が本題じゃないんだろ」

八幡「……ああ、もうF組の授業はやってるんだよな? お前なら気付いたかもしれんが――」

葉山「鶴見留美さんのことか? ……名簿を見たときはまさかと思ったけどな」

自分の名を聞いて、ピクっと体がこわばる。


八幡「そうだ。さすがだな……またちょいと、人間関係で悩んでるそうなんでな。少しばかり、手助けしてやろうと思ってるんだ。ついては、お前らにも『また』、協力してほしい」

葉山「それは構わないが……らしくないな。少し変わったか?」

揶揄するような言葉に、憮然と応じる八幡。

八幡「……ただのポイント稼ぎに決まってるだろ。それに、結局は本人次第だ。必要以上の肩入れはしない。 ……お前らはせいぜい利用されてくれ」

葉山「何か、方法は考えてるのか?」

八幡「ああ……けど、まだこれといった決め手になるアイデアはない」

葉山「……あまり無茶はするなよ。フォローはするが立場上、限度があるぞ」

八幡「悪意で孤立させられてた『あの時』とは状況が違う。今回、壊す必要があるのはあの娘の周囲の人間関係じゃなくて、あの娘と周囲の間にあるちょっとした壁だ。ほんのわずかなきっかけがあればいい……正攻法で十分だよ」

葉山「そうか……安心したよ。そういうことならもちろん協力は惜しまない」

八幡「言っただろ、ポイント稼ぎだって。俺はわが身が一番可愛いんだ。保身に障るようなことはしねぇよ」

葉山「……どうだか。それは怪しいと思うけどな」

八幡「どうも、誤解があるようだな……まぁ、なんだ。今更だが、あの時は嫌な役をやらせて悪かったな」

葉山「4年前も言ったが、かまわないよ。それに、あの時も実質的に泥を被ったのはお前だったからな」

……私はだまって会話を聞いている。数年越しにようやく、いろいろなことが腑に落ちつつあった。海老名先生と目が合う。苦笑しながら、頷いていた。おそらく私の推測への、肯定。

423: 1 2012/12/28(金) 02:54:24.77 ID:oHxcQgnL0
八幡「助かる。じゃあ、詳しいことはまた相談するから」

ジュースの缶をボックスに捨てながら、八幡が言うと、楽しそうに葉山先生が応じた。

葉山「了解。 ……ひとつ、貸しだな」

八幡「今、ジュース奢っただろ」

葉山「色々な意味で甘すぎるぞ、比企谷」

八幡「俺が頼まなくても、状況が分かったら何とかしようとしてたくせに」

葉山「そうかもしれないが、お前に貸しを作れる機会を逃がしたくはないからな」

八幡「ふぅ……わかったよ。この借りは、いずれまたの機会に精神的に」

葉山「そうだ。今度、飲みに行かないか?」

八幡「……ああ、そのうち暇があれば」

葉山「あとでメールするよ。あ、アドレスは知ってるから」

八幡「おお。 ……え? …………えぇ?! ちょっと待て、どこから……」

葉山「結衣から。ちなみに俺は、お前の実習のことも聞いてたぞ?」

八幡「……俺は聞いてねぇよ。何考えてんだ、あのアホ!」

葉山「俺が口止めしてたんだ」………


2人が何やら言い合いながら去っていくのを確認してから、海老名先生といっしょにこっそり物陰から出てくる。
……結衣って誰だろう。これも4年前に居た人かな?

海老名「……さて、何から聞きたい?」

海老名先生が、何かを補給した後のような何やら艶々した顔で微笑みかけてきた。鼻血は無事止まったらしい。


424: 1 2012/12/28(金) 03:45:24.94 ID:oHxcQgnL0
その後、海老名先生の口から改めて、あの時の真相を聞いた。当時の私の抱えていた問題を解決するために、八幡が提案した方法と、その意図。おおむね、先ほどの会話から推測した通りだった。ほかにもいろいろと。八幡の高校時代の人となりや、葉山先生との関係について……は、どうも、かなり情報が偏っていた気がする。これはあまり信用しないほうがいいだろう。

背後の八幡の方を、またちらっと見た。彼は……伸びをしながらタンポポの花を何やら優しい目で眺めていた。普段は腐っているのに、不意にドキッとさせるようなことを言ったり表情をしたりする。いろいろ聞きたいことがあるのに、どう切り出したらいいのか、きっかけがつかめなかった。

八幡「そういえば、貸した本はどうだった?」

留美「……う、うん。もう読み終わった。あ、もう返すね」

返そうと思って持ってきていた文庫本を取り出し、彼に差し出す。

八幡「結構、読むの早いな……じゃあ、次いくか?」

彼は「こころ」を受け取ると、新しい本をだしてきた。

武者小路実篤「友情」

留美「……これは?」

八幡「……そうだな。まぁ、内容については余計な先入観を与えないようにノーコメントにしとこうか。武者小路実篤は、白樺派の代表的な作家だ」

白樺派と武者小路実篤について、簡単な説明。このあたりは、さすが国語の教育実習生か。

八幡「『天に星、地に花、人に愛』」

留美「……え?」

八幡「武者小路実篤が、よく色紙に書いてた言葉だそうだ。もとは、ゲーテのものらしいけどな」

天に星、地に花、人に愛  ………とても美しい、いい言葉だ。心に、すとんと落ちてきた。

闇の中で輝く星。地上でひっそりと咲く花。人の心の中で光る、愛。 とても、素敵なイメージが脳裏に再生される。

留美「……でも、貴方には似合わないね」

くすっと笑いながら言う。腐った目でそんなことを言われても注意報か何かの文言のようだ。 ……もちろん、照れ隠しも入っている。

458: 1 2012/12/31(月) 21:14:52.75 ID:/+ZykxT40
八幡「うるせぇな、自分でもわかってるから。そもそも俺の台詞じゃねぇし」

むすっとした表情で言い返してくる。その後、ひとつ溜息を吐いて苦笑しながら付け足した。

八幡「……ま、嫌いでもないけどな」

留美「………………」

なんだか、自分の感じている気持ちがうまく説明できない。ただ、だんだんと彼との会話が楽しくなってきている自分に気付く。

八幡「……ところで、これを読んだ感想はどうだった?」

不意に。
夏目漱石の「こころ」をしまいながら、八幡がそんなことを訊いてきた。
私は我に返り、ややテンパりながら返す。

留美「…あ、うん。ええと……面白かった」

……いや、まて、これでは小学生並みの感想だ。ええと、ええと……

460: 1 2012/12/31(月) 21:29:27.02 ID:/+ZykxT40
……そういえば、読んだ中でとくに印象に残った言葉があった。

「そんな鋳型(いかた)に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです」

この言葉を読んだとき、小学校時代のあの経験を連想した。
友達だと思っていた子たちが、急に自分を迫害する敵になる。自分も同じことをしていた……色々と苦くて辛い記憶。
優しいと思っていた高校生のお兄さんお姉さんたちが、急に敵になる。後に真相と意図を知った、不可思議な記憶。

……そうだ、ここから、あの話に……! 私の脳裏に、天啓がひらめいた。
決意して、話し始める。彼の、反応がみてみたかった。

留美「……私ね、小学校の頃、ちょっと孤立させられていたことがあったの」

461: 1 2012/12/31(月) 21:49:59.60 ID:/+ZykxT40
八幡「……へ、へぇ。まぁ、問題が解決してよかったな」

彼の顔をじっと見つめながら、話を続ける。当初、ポーカーフェイスを保とうとしていたようだが、林間学校で変な男子高校生に出会った下りのあたりから、露骨に挙動不審になりだした。肝試しで起こった事件、その後、孤立が解消されたことを話し終えた後で、彼は目を泳がせながら上記のような台詞を述べた。

留美「……見覚えがない。そう言ってたよね?」

八幡「……あ、ああ。それがどうかしたか?」

留美「八幡」

八幡が、ぎょっとした表情でこちらを向く。

留美「八幡でしょ? 貴方の名前」

八幡「……なぜ知っているのかしら。あなた、ストーカー?」

やや引きつった顔で、芝居じみた態度で質してくる問いに簡潔に答えた。

留美「全部聞いた、海老名先生から。葉山先生との会話も立ち聞きしてた」

八幡「オイ、冗談抜きでストーカーっぽいぞ……てか、呼び捨てかよ」

溜息。

462: 1 2012/12/31(月) 22:23:02.46 ID:/+ZykxT40
ルミルミ呼ばわりする奴に呼び捨てをとやかく言われても無視する。

留美「何で、知らない振りをしたの?」

八幡「……ガチで忘れてたんだよ」

留美「絶対、嘘。 ……私、貴方にお」

八幡「どっちにしろ、昔のことだから気にすんな」

お礼を…と最後まで言い切る前に、八幡がかぶせてきた。

八幡「……あの時のも、今回も、ただのポイント稼ぎで自分のためにやってるんだ。別に感謝はしなくていい」

明白に突き放されて、しばし言葉を失う。

八幡「……まぁなんだ。どのみち、ここにも3週間しかいないからな。どう考えてもそう長い付き合いにはならないんだし、ホントに、あまりそういうの、気にすんな」

少し言葉が強すぎると思ったのか、視線を逸らしながらそう、付け足してくる。

留美「……うん」



463: 1 2012/12/31(月) 22:47:14.37 ID:/+ZykxT40
自由「まさか、先生があのカリスマ絵師の中の人だったなんて……お会いできて光栄です!!」

海老名「フフ、ありがとう。わたしも、同志に出会えてうれしいわ……」


微妙な雰囲気で沈黙していたところに、誰かが近づいてくる気配があった。あれは……海老名先生と、クラスの女子だ。たしか、二宮 自由(にのみや みゆ)といったか。

「やはりあのカップリングは○○の受けが…」「次の即売会では……」「言葉攻め」「そそる」「NTR」「hshs」

……遠くから聞いていると、なんだか理解できない単語が飛び交っている。いったいどんな話を……

八幡が、そっと立ち上がった。

八幡「………行こう。ここもじき腐海に沈む」

464: 1 2012/12/31(月) 22:57:56.86 ID:/+ZykxT40
留美「う……うん」

よくわからないが、促されるままに立ち上がる。確かに、なんだかあれは近づいてはいけないモノのような気がする……


八幡「……チッ」

気付くと、立ち上がった八幡がテニスコートの方を見て舌打ちしている。


麗「隼人さんとテニスするの、久しぶりですね」

葉山「……今は教育実習生で来てるんだ。隼人さんはやめてくれないかな」

麗「あはは、ごめんなさい。じゃあ、隼人先生で」


その視線の先を見ると、今度は葉山先生とクラスの女子数人が、テニスのラケットやボールを持ってこちらへ来ていた。
苦笑交じりの葉山先生と弾んだ声で会話を交わしている女の子は、その中でもひときわ目立つ。あれはたしか、三浦 麗さんだ。


八幡「ぼっち力 たったの5か……ゴミめ」

ギリギリ歯ぎしりしながらそんなことを言われても、むしろこちらがゴミっぽいのでやめてほしい。

471: 1 2013/01/01(火) 01:31:59.90 ID:1BKN3Op/0
ちなみに、そういう自分のぼっち力とやらはどれくらいなのだろう。

八幡「知りたいか?」

留美「……名前にちなんで8万とか?」

八幡「私のぼっち力は53万です」

……桁が違った。

八幡「そしてあと2回変身を残している。この意味が分かるか?」

留美「貴方が救いようのないバカだってことは分かった」

これまでどれだけ痛々しい人生を送ってきたというのか。あと変身って何よ……

留美「貴方が最強のぼっちだって言いたいの?」

八幡「……いや。一人、俺より上がいた」

留美「……誰?」

八幡「伝説の、Z戦士……」

留美「……だから、誰?」

遠い目をされても困る。超サ●ヤ人?

472: 1 2013/01/01(火) 02:12:28.79 ID:1BKN3Op/0
そんな痛々しい会話をしている間に、目の前のテニスコートでクラスメートの女子たちと葉山先生が入れ替わりながらテニスを始めた。

殆どは未経験者みたいで、ラリーも長く続かない。でも、楽しそうにボールを打ち合っている。

留美「…………」

八幡「やりたいのか?」

留美「……え?! べ、べつに……」

思わず、挙動不審になってしまった。


葉山「あ、ごっめーん。ボール取ってくれるか?」

そこへ、打ち損ねのボールが跳ねながらこっちへ飛んでくる。

八幡は、ふっ、と笑いながらこちらを向いてひとつ頷くと、テニスコートに向けて歩き出す。
弾むボールをキャッチすると、コートに向かって声を上げた。

八幡「おーい、葉山、ちょっと頼みたいんだけど……」

留美「わー! ちょっと待って!」

八幡の意図が分かった私は、慌てて制止しようと声を上げる。だが、遅かった。

八幡「一人、入れてもらっていいか?」

474: 1 2013/01/01(火) 02:19:30.76 ID:1BKN3Op/0
数分後。

八幡「……どうしてこうなった」

ジャージ姿の八幡が呻く。

留美「……自業自得でしょ」

軽くストレッチしながら冷たく突き放した。

私たちの対面のコートで、三浦さんと葉山先生が何やら話しながらこちらを見ている。三浦さんは値踏みするような視線で、葉山先生は、心なしか楽しそうだった。

八幡が私をテニスのグループに入れてくれるように頼み、葉山先生は快く了承した……まではよかったのだが、クラスメートの間には若干の戸惑いがあった。

それをみてとった葉山先生が、こんな提案をしてきたのである。

葉山「じゃあ、せっかくだから比企谷先生にも入ってもらって、男女混合ダブルスでゲームをやろうか」

八幡「……ちょっと待て?!」


486: 1 2013/01/01(火) 10:13:51.33 ID:1Tq+L3HL0
八幡が驚愕して上げた抗議の声は、女子たちの歓声にかき消された。葉山先生と誰が組むかで盛り上がっている。

呆然としている八幡の肩をポンとたたく

留美「…………あきらめろ」

八幡「」

結局、予想通り三浦さんが葉山先生の相方となったようだ。先ほどのラリーでも、一人だけ動きが違っていた。間違いなく経験者だろう。葉山先生も、間違いなく運動神経はよさそう。それに、2人はどうもお姉さんを通じたかねてからの知り合いっぽい。チームワークも悪くないんじゃないだろうか。

一方こちらは……私は腕に多少の憶えはあるけれど……


留美「……八幡、テニスやったことあるの?」

八幡「……ちょっとだけな。妹と……その相方にせがまれて、たまに付き合うくらいだ」

留美「ふぅん。頑張ってよね……頼りにしてるから」

八幡「あまり期待されてもな……お前はイヤじゃないのか?」

留美「しょうがないでしょこの際……責任はとってもらうからね」


葉山先生がこっちに近づいてきた。

487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/01(火) 10:20:24.10 ID:FIwHjjdSo
葉山リベンジなるか?

488: 1 2013/01/01(火) 10:29:57.51 ID:1Tq+L3HL0
葉山「懐かしい構図だな、比企谷。……いつかの借りを返させてもらおうか」

八幡「嬉しそうな顔しやがって……4年も前のことを根に持ってたとは、意外に執念深い奴だったんだな、葉山」

葉山「相手がお前だからな。イヤだろうが、観念しろ。 それに、鶴見さんだけじゃなくお前ももっと多くの生徒たちと積極的に交流すべきだよ」

八幡「……つくづく、お節介な奴だな。これでさっきのはチャラだからな」

葉山「わかってるよ。まぁ、たまにはいいだろう? 今度は自分が前に出るからってさっき言ってたじゃないか」

八幡「……そういう意味で申し上げたのではない!」

490: 1 2013/01/01(火) 10:48:40.62 ID:1Tq+L3HL0
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてから、憤然と抗議する八幡。往生際が悪いなぁ……

八幡「まぁいいだろう。そっちがそのつもりなら、こっちも容赦はしない」

……おぉ?! キリッとした顔で葉山先生に言い放つ八幡に思わず瞠目する。

葉山「ああ、望むところだ」

八幡「返り討ちにしてやるよ……ルミルミが(ボソ)」

留美「……おい!!」

思わずツッコミを入れる。他力本願か!! ちょっとカッコいいと思って損した。私のときめきを返せこの馬鹿。

八幡「ルミルミ、俺が許す。薙ぎ払え。新狼牙風●拳をみせてやれ」

留美「だからルミルミとか呼ぶな。●ムチャ扱いすんな。自分が操●弾でも撃ってろバカ!!」

八幡「……いて?! やめ……ぐあ!!」

脛を蹴ってやった。凶器攻撃でないだけありがたく思ってほしい。

502: 1 2013/01/03(木) 01:26:33.71 ID:TPXd0FBSO
そんなやり取りをしていると、対面のコ-トから明るい笑い声か聞こえた。

麗「あはは……鶴見さん、あんまり話したことなかったけど、結構面白いやつだったんだな」

留美「……あ、三浦さん」

み、見られてた……人目を気にせずに自分がやらかしたことに気付き、思わず赤面する。見ると、周囲にもギャラリーが集まって来ていて、クスクスという笑い声がそこかしこでこぼれていた。

あう……は、恥ずかしい……

麗「妙なことになったけど、よろしくね」

右手を差し出してきた。

留美「……あ、うん。こちらこそ」

握手を交わして別れる。驚いた……いい人だ。

ふと、八幡の方を見ると、ニヤニヤしながら親指を立てていた。なんか腹がたったので、すれ違いざまもう一度蹴っておいた。

八幡「つ、追撃……俺が何をした」

……うるさい。

509: 1 2013/01/06(日) 03:53:35.31 ID:KJrvEPcv0
……ゲームが始まった。三浦さんは、思った通りかなりのプレーヤーだ。身体能力、技術ともに高く、スキがない。葉山先生も、スポーツマンの印象に違わぬ運動神経を発揮している。

だが、意外なことにこちらも負けていなかった。私も、ブランクがあるとはいえ県の団体戦でベスト4まで進んだチームでレギュラーだったし、八幡も死んだ魚のような目に似合わず好プレーを連発していた。フォームが綺麗で、力強い。サーブもレシ-ブも正確だった。当初は、葉山先生に黄色い声をあげるだけだったギャラリーたちも、一進一退の攻防が続くと次第に観戦にのめりこみ始めていた。見れば、観客の数がどんどん増えてきている。女子だけでなく男子、物見高い他クラス、学年の人間まで集まりだす、人だかりがさらに人を呼んでいた。

八幡「……気にすんな。あんなもん、カボチャだカボチャ。そのくらいに思っとけばいい」

留美「……別に、緊張なんてしてないし」

自然の役割分担で、私が前衛、八幡が後ろで捌く形となっている。しかし、思ったよりこいつ、腕がいい。
時々妹さんに付き合う程度だと言っていたが……

留美「……ねぇ、サークルも、もしかしてテニスのサークルとか?」

八幡「……あ”?」

……露骨に不機嫌になった。

510: 1 2013/01/06(日) 04:03:31.96 ID:KJrvEPcv0
八幡「ルミルミ、いいか? 大学のテニスサークルなんてのはな……」

どうやら私に怒っている訳ではないようだが、ギリギリと呪詛せんばかりの表情で歯軋りされると……ちょっと退く。

八幡「9割がリア充を自称するパーどもの巣窟だ。つまり俺の敵だ」

……偏見だと思うけど。

留美「じゃあ、何のサークルなの?」

八幡「……何だっていいだろ。ほら、来るぞ」

またはぐらかされる。サーブ権は相手に移っていた。三浦さんが、ボールを撃つモーションに入る。
……それにしても気になる。

再び、ラリーが再開した。

511: 1 2013/01/06(日) 04:27:33.28 ID:KJrvEPcv0
八幡のリーチの外、左側に鋭い打球が飛ぶ。これは……とれない! と思った刹那、

八幡「……ふっ!」

腰を落としてラケットを体の左側、腰だめのように構えた八幡は、一歩踏み込みざま、そのつま先を軸にしてくるりと回転し、その回転運動をさらに腰から肩、肘、ラケットヘッドへと滑らかに連動させ、捉えたボールを一直線に打ち抜いた。ボールが対面のコートで弾ける。超高速のリターンエースだった。ギャラリーも一瞬、何が分かったのかわからずしーんとしていたが決まってから一瞬の間が空いて後、観客が一斉に歓声を上げた。

留美「は、八幡、今の……///」

正直、驚いた。少し、興奮しているかもしれない。


512: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 10:43:43.24 ID:fwIQcLxco
どこかで見たようなリターンエースてやつか

513: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 11:09:40.71 ID:A4U9jJvho
濡れるわ

514: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/06(日) 12:33:57.99 ID:t9y+PnYj0
ゆきのんとイチャコラしながらテニスやってたってことか

521: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/07(月) 23:26:55.62 ID:84jgiPfL0
八幡「……ん、んん! まぁ、こんなもんだ」

……私は見た。一瞬、ものすごいドヤ顔で小さくガッツポーズしてから、我に返って表情を引き締めたのを。もっとも、今も少し口元がニヤついて隠しきれてないけど。

葉山「やるな比企谷。雪ノ下さん直伝か?」

八幡「ハ……あいつに直接教わる? 恐ろしい発想をするな、葉山。 もしかして特殊な性癖の持ち主か?」

軽口を言い合う2人。
……雪ノ下さん? 2人の共通の知り合いらしいが誰だろう。

葉山「……まぁ、分からなくもないが」

葉山先生が苦笑する。会話の内容からすると、テニスのコーチだろうか。どうやら、かなり厳しい人物のようだが……

八幡「単に、幾度となく対戦して例外なくボコボコにやられただけだ」

葉山「……お前」

性癖を訝しむ目で見られて、即座に反発する八幡。

八幡「ちげぇよ! 毎回、あっちから勝負しかけてくんだよ。 俺は正常だが、あいつはアレだ。間違いない」

アレ……ドSとか、そんな感じか。

522: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/08(火) 00:34:29.02 ID:iKt3hP/d0
八幡「ま……そんなわけで、何度も砂を噛んだ代償に盗んだ技だ。これで一歩リードだな」

葉山「……そうだな。じゃあ、俺も負けずに頑張るとしようか」

八幡「……ん?」


葉山先生が嘯いたその言葉は、ハッタリではなかった。先ほどまでより、スピードとパワーを増した打球が飛んでくる。

かと思えば緩急をつけ、多様なコースにスライス、ロブ、ドロップと使い分けてくる。 ……どうやら、先ほどまではあれでも加減していたらしい。この人も、ただの運動神経のいい素人のレベルではなかった。

八幡「お前……三味線弾いてたのか」

葉山「そういう訳じゃないけどな!」

返答とともに打球が返ってくる。

留美「……ふっ!」

何とか、追いついて打ち返した。

麗「……そこっ!」

三浦さんが、甘いコースに入った球を叩きつけてくる。

八幡「……チッ!」

舌打ちしながら追いつくと、バックハンドで打ち返す。だが、コースを読まれていた。

葉山「……甘い」

狙い澄ましたサーキュラースイングで打ち返されたボールは、ちょうど私と八幡の中間で跳ねた。連携の綻びを突かれてしまった。

これで、逆転。

523: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/08(火) 00:48:55.45 ID:iKt3hP/d0
葉山「悪いな、俺も大学に入ってから、たまに付き合いでやってるんだ」

葉山先生が楽しげな笑顔を向けてくる。

八幡「お前、本気だな……こんなゲームでお前がマジになるとは思わなかった。仲良く馴れ合うのが信条じゃなかったのか?」

大人げないぞ葉山、と先ほどの自分のドヤ顔を棚にあげ、呆れたような調子で返す八幡。

葉山「相手がお前だからな」

八幡「誤解を招く様なこと言うなっての。向こうの汚超腐人が失血死しちまうだろ」

ちらりとギャラリーの方をみる。至福の表情で、鼻を押さえている汚超腐人こと海老名先生が、びしりと親指を立てていた。



524: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/08(火) 01:33:03.45 ID:iKt3hP/d0
八幡「……気にすんな。今のは仕方ねぇだろ」

留美「う、うん」

どうやら、考えたことが顔に出ていたらしい。 ……さっきから、連携のミスをつかれての失点が続いている。本来は、元々テニス部だった私が八幡をフォローしなければならないのに、逆に私が足を引っ張っているように感じてしまう。

八幡「こっちは即席ペアなんだ。連携がぎこちないのは当然だろうが」

留美「……でも」

……負けたくない。そう続ける前に

八幡「わかってるよ」

八幡が、こちらを見ながら頷いた。

八幡「……ここからだ。再逆転してやろうぜ」

腰を落として構える。 ……不思議に思った。なぜ、そこまで?

八幡「その目を見れば、大体思ってることはわかる。 …まったく、負けず嫌いなところまで似てるときた……」

……後半はよく聞こえなかった。

八幡「別に何か賭けてるわけじゃなし、俺はどっちでもいいけどな。お前は負けたくないんだろ……なら付き合うさ」

そうだ。私は負けたくない。その理由は……

525: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/08(火) 08:20:02.15 ID:C1vWmUgDO
全てを見透かす濁眼
って書くとちょっとカッコ良く感じなくもない

526: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/08(火) 08:33:50.40 ID:22aIUgd60
決めたときのリアクションまでゆきのんっぽくなってるぞ八幡

533: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/09(水) 01:32:32.80 ID:Tk/gOUWd0
ゆきのんに罵倒されるのを心地良いとか言っちゃう奴がドMじゃないとか説得力ないぞ八幡

535: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/09(水) 02:13:29.28 ID:FvQKBuxq0
……私はどうやら、自分でも意外なくらいこの数日の……このヘンなやつと過ごした昼休みを気に入っていたらしい。

そんな時間を過ごしていた自分たちのことを、卑下したくなかった。相談に乗り、今も力を貸してくれている彼の応援に応えたかった。

即席のダブルスではあったけれど、大勢のギャラリーに対して胸を張って戦いたい。そして勝ちたい。そんな気持ちだった。


サーブ権は、こちら。ここで追いつけば、デュース突入。ボールを握りながら、呼吸を整える。空を見上げた。天気は快晴。眩しいくらいの青空だ。その吸い込まれるような高さが、私に決心を促す。現役のときも成功率は低く、またブランクもあって自信がなかったので封印していた技…ボールを空に高く、高く放り投げた。


ボールはコートの中央へ。ミスと思ったのか、観客がため息をつく。 右足から踏み出し、両足をそろえて思い切り飛んだ。タイミングはドンピシャ! 空中で思い切り全身のバネを使い、ラケットを振りぬく。ガットが、ボールを捉えた。高い音を立てて、一直線に対面のコートへボールが突き刺さる。

……やった! 葉山先生と三浦さんの反応速度を追い越し、そのまま飛んでいくボールをみて心中で快哉を叫んだ。その一瞬の油断のせいだろう。着地をミスした。右足首が一瞬妙な角度に曲がり、足の関節に痛みが走る。数歩よろけてなんとか転ばずに済んだが……やばい。挫いたかも。

私のジャンピングサーブの成功を見て、ギャラリーが大きく沸く。葉山先生は苦笑し、三浦さんは賞賛の表情を向けてくれている。痛みを表情に出さないよう注意し、笑顔でそれに応えていると、八幡が、少し硬い表情でこちらに近づいてきた。





536: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/09(水) 02:25:42.14 ID:FvQKBuxq0
八幡「ルミルミ、お前、いま、足……」

気付かれたくなかったのに、本当に目ざとい……

留美「……大丈夫。それより、そんな顔してないで少しはパートナーを褒めてよ」

すごかったでしょ? と微笑んでみせる。誤魔化されてくれればいいけれど……八幡はしばらく、真顔で私を見ていたが、やがて、苦笑気味に笑って手を軽く上げた。

八幡「……ああ。正直見惚れたよ。ナイスプレー。 ……ドヤ顔するだけあるわ」

私も手をあげ、ハイタッチを交わす。その後、後半のムカつく台詞に対して、胸に拳をどすんとぶつけて抗議。 自分を棚に上げてあんたが言うな、バカ。


八幡「よし、じゃあ俺も珍しく本気出すわ。……出すわー」

照れ隠しか、棒読みのような口調で嘘くさくそんなことを言う八幡。 ……意外に、ハッタリでもなかった。




538: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/09(水) 07:33:37.41 ID:kmAo2+MDO
ルミルミがヒロインにしか見えない

539: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/09(水) 11:35:09.77 ID:M8bobzw8o
今はルミルミのターンです

548: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/10(木) 20:24:54.37 ID:NLiGmaRB0
八幡「………ちぃ!!」

遠めのボールに辛うじて喰らいつき、弾き返す八幡。

本気というよりも、必死。そんな表情で、コートを走り回っている。

昼休み終了まで、おそらくあと数分。だというのに、ギャラリーは減るどころかむしろ増えていた。

果てしないラリーの応酬……とはいえ、明らかにこちらのほうが不利。先ほど足を挫いたせいで、私の反応速度と運動量は明らかに落ちていた。八幡が必死になって走っているのは、それをカバーするためだ。追いつかれても、決して逆転は許さず、脅威的な粘りを見せていた。盛り上がりは最高潮……だけど私は、足手まといになっている現実に歯噛みしていた。恰好をつけて、無理した結果がこの様だ。

留美「八幡……ごめん。大丈夫?」

荒い息を吐きながら、片手をあげて心配ないというジェスチャーを返してくる八幡。その疲れた様子に、少し胸が苦しくなる。

八幡「このくらいで息が上がるとか、最近、煙草吸い過ぎだったな……減煙するか」

留美「……どうせなら禁煙したら」

この期に及んで、そんな減らず口。ほんとうに、こいつは……

八幡「おお、そうやって笑っとけ。その笑顔ができれば、この先いくらでも友達はできるだろうよ」

留美「…………」

……ほんとうに、こいつは。

560: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 03:38:06.88 ID:8bIlHM2s0
大きく深呼吸した後、空を見上げる。 高い青空に、太陽といくつかの雲が見える。いつの間にか風が止んでいた。 ……八幡の口元が、わずかに綻んだ。

八幡「さて……そろそろとっておきを見せてやるよ」

こちらにサーブ権が戻ってきた。すれ違いざま、ボールを軽く弄びながら八幡がそんなことを言う。

……とっておき? 何をするつもりだろうか。

八幡は静かに呼吸を整えながら、ボールをトントンと地面に打ち付けている。精神を集中させながら、何かのタイミングを計っているようだ。

昼休みもおそらくもうすぐ終わり。ギャラリーも静まり返っている。対面のコートをみると、葉山先生も微動だにせず、こちらを見つめて意識を集中させている。 

緊迫した空気の中、八幡がサーブのモーションに入った。

それと同時に、ひゅうっ、と風の音が聞こえる。八幡が、ゆるやかにボールを打ちあげる。勢いのない打球が頼りなく空に舞い上がった。まさか打ち損じ? ギャラリーが「ああ…」と落胆の声をあげる。三浦さんが、落下地点に回り込んだ。 

……そのとき、一陣の風が吹いた。

この、風は……






561: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 04:00:43.49 ID:8bIlHM2s0
いつもこの時間に吹く潮風。それに流されてボールが逸れてゆく。三浦さんが、驚きながら追い縋ろうとする。本来ありえない軌道を描いてコートの端に落下したボールに、それでも追いつく三浦さん。この子、やはりすごい……

しかし、風は一度だけでは止まなかった。再び拭いた風が、バウンドしたボールをさらに押し流していく。……まさに魔球!

軌道を目で追う。その先に……

すでに葉山先生が回り込んでいた。

まさか、軌道が読まれていた?! 

葉山「比企谷、甘いぞ!」

ベストポジションから十分に溜めを作り、こちらのコートに打ち返してきた。

八幡が舌打ちする。

その球は一度見ている、と葉山先生が付け加える。

八幡の位置からでは届かない。だが……私は足の痛みを無視して駆け出していた。絶対に、返す!

八幡が何か叫ぶ。だが、ギャラリーの興奮の叫びにかき消されて聞こえない。ジャンプする。ギリギリで届く。振りぬいた。

562: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 04:06:15.61 ID:8bIlHM2s0
ボールは……ネットにあたってこちらのコートに落ちた。

563: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 04:38:59.67 ID:17UdJ2CHo
ホントに甘いな
義輝のモノの考え方と同じくらい甘い

566: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 14:42:15.19 ID:8bIlHM2s0
ギャラリーが、未だざわついている。

海老名「まさか、またみられるとはね……」

自由「知っているんですか? 雷……もとい、海老名先生!」

海老名「風を操る伝説の魔球、『風精悪戯(オイレンシルフィード)』」

自由「風精……」

留美「……悪戯?」

二宮さんがこっちを向いて視線が合う。微笑みかけられて、思わず赤面してしまったが何とか会釈を返す。


八幡「おい、それ違うから! 材木座のやつが勝手につけただけだから!」

どうやら、如何なる経緯か以前にも披露したことがあったらしい。葉山先生が対応できたのもそのためか…
……ネーミングセンスについてはコメントを控える。

海老名「でも、性闘士に同じ技は二度通用しないことを失念していたようね、ヒキタニくん」

八幡「聖闘●じゃねぇよ。そして、今の発音なんかおかしいだろ」

八幡が海老名先生の方をみて揶揄にツッコミをいれながらこちらに近づいてくる。

海老名「夢だけは誰にも奪えない心の翼だから。あとちょっと、頑張ってね」

海老名先生はにこやかに手を振ると、二宮さんと趣味の話題で盛り上がり始めた。
第7感とか聖域とか聞こえてくるが、周囲から人が引いていくところを見ると、またアレな内容なのだろう。

ちなみに私は、あれは繰●弾だと思った。ヤ●チャなら(やられるのも)しょうがない。



八幡「すまん、ダメだった。今のは俺のミスだ……足、大丈夫か?」

留美「……うん」

歩けないほどじゃない。だけど今のプレイで、更に痛みが増した気がする。

八幡「どのみち、もう時間もない。ここでやめとくか?」

留美「ううん、やる。最後まで」

そう言って首を振る。何故、ここまで意地になっているのかは、自分でもよくわからない。八幡が溜息をつく。

八幡「そうかい……まぁ、無理すんな。動かなくていいからな」

そういうとボールを拾い、こちらの様子をじっと伺っている葉山先生の方に投げた。

八幡「悪いが、チャイムが鳴るまで続行頼むわ」

葉山「かまわないが……いいのか?」

八幡「どのみち、もうすぐ終わる。とはいえ、まだ勝負はついてないぜ」

葉山先生は、ふっと微笑んで、了承の意志を伝えた。

567: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 15:17:14.53 ID:8bIlHM2s0
葉山先生が、構える。半身の姿勢から、ボールを高く放り投げた。ラケットのグリップを両手で握りしめて、首の後ろに寝かせる。まるで野球のバッターのような。それを見て、八幡が呻く。

八幡「野郎、まさか……」

ガッ!!!

落下してくるボールを、アッパースイングで思い切り打ちあげた。フレームにあたって跳ね返されたボールは、ぐんぐん空に舞い上がっていく。たちまち、まるで豆粒…いや、米粒のように小さくなった。


569: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 15:39:40.43 ID:8bIlHM2s0
八幡が、舌打ちして後方に走っていく。


海老名「あれは、たしか『隕鉄滅殺(メテオストライク)』……宿敵の技をコピーして返す。これも王道ね」

メテオストライク……ギャラリーがざわめく。

八幡「だから! その呼び名は違うっての」


そんな会話が聞こえてくる。空を見上げた姿勢のままで、右足を引きずりながら少しずつ後ろに下がる。

やがて……どんどん小さく、名もない星のようになったボールが、今度は逆にどんどん大きくなってくる。
運動エネルギーを使い果たし、落下を始めたのだ。

このままいけば、ギリギリコート内に落ちる。打ち返すにはもっと、もっと後ろに下がらなければ……

八幡「おいルミルミ! 危ない!!」

留美「……えっ」

言われて、反射的に振り向いた。いつの間にか、いつも昼食をとっていた場所の近くまで後退している。そして足元に、あの、タンポポの花が……

あわてて踏むのを避けようとして、足がもつれる。負傷した足首に、痛みが走って、さらにバランスが崩れる。

転倒する――!!


八幡「……ルミルミ!!」

ボールがコートに着弾した。大きな音と共に激しい砂煙が舞い上がる。

570: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 15:52:44.57 ID:8bIlHM2s0
……確かに転んだ、と思った。しかし、私の身体は地面に激突する寸前、全力で滑り込んできた誰かの腕に抱きとめられていた。

八幡「………ギリギリセーフだな」

砂煙が晴れる。私を抱きとめた腕の持ち主の方向を、振り向いた。

八幡が、ふぅ、と息を吐きながら額の汗をぬぐっていた。私の身体は、地面に片膝をついた八幡の腕の中に、いわゆるお姫様抱っこのような形で収まっていた。

状況を理解すると同時に、激しく頭に血が上る。

留美「な………あ………!! ///」

一瞬の静寂の後、ギャラリーから、大歓声が上がる。

571: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 16:01:45.12 ID:qknZ//Vko
だんだんとテニヌじみてきたなww

572: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 16:19:56.86 ID:L9efMFFb0
あんまりフラグ立てるとゆきのんの制裁が待ってるぞ

573: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 16:41:29.85 ID:8bIlHM2s0
同時に、チャイムが鳴った。昼休みの終わりを告げる合図だ。


八幡「……怪我は大丈夫か?」

口をパクパクさせている私の顔をみて微笑むと、八幡はそんなことを言った。必死でコクコク頷く。

頭はグラグラ、心臓はドキドキだ。

八幡「……ボールはどっか飛んでった。試合終了だ」

留美「あ……」

そうか。そういえば……そうだった。

留美「……負けちゃった」

そっと地面に下してもらい立ち上がる。

八幡「……試合にはな。でも、この勝負はお前の勝ちだ」

留美「……えっ?」

八幡が指差す方を見ると、二宮さんたちギャラリーのクラスメートや、さっきまで対戦三浦さんがこちらに手を振りながら近づいてきていた。


八幡「……ま、何だかんだ、これで変な壁もなくなっただろ。怪我の功名ってことでいいんじゃないか」

俺も、これでお役御免だな。と笑う。

留美「……待って!」

ギャラリーに取り囲まれる前に消えるわ、と手を振って去ろうとしている八幡に、思わず追い縋り、その服の裾を掴んだ


575: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 17:00:39.84 ID:17UdJ2CHo
八幡の敗因はぼっちじゃなくなったからだな

576: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 17:02:44.57 ID:8bIlHM2s0
何を言えばいいかわからないまま、何か言おうとして……服を掴んだ手が、急に強く引っ張られた。

留美「……え?」

八幡「……えっ?」

足元に、先ほどどこかへ飛んで行ったボールが転がってきていた。それを八幡が踏んづけて、いま、激しく滑り……

ずでん!!

そんな音をたてて、私たちは一塊に絡まりながら、今度こそ転倒した。

577: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 17:19:41.96 ID:8bIlHM2s0
留美「うっ………」

どうやら、八幡を下敷きにしたようで、今度も地面に激突はしていない。お礼を言おうと下にいる八幡をみて……私は硬直した。

スカートの中。お尻の直下に………仰向けの八幡の顔面、が………密着して……呼吸の、感触!!

慌てて飛びのいた。八幡が、上体を起こす。


留美「し………」

思わず、ラケットを振りかぶった。

八幡「……まて。落ちつけ」

ひく、と顔を引きつらせながら、八幡が制止しようとする。だがそれも耳に入らず……

留美「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

八幡「ぶげらっ!!」

全力のフルスイングが、顔面を体ごと吹き飛ばした。

578: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 17:24:15.71 ID:qknZ//Vko
ジャンプSQ的展開目白押し

579: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/13(日) 17:28:30.93 ID:L9efMFFb0
ゆきのんにラッキースケベは想像つかないからルミルミが犠牲になってんのか

580: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 17:48:28.41 ID:8bIlHM2s0
………………いろいろと、終わった。


午後の、国語の授業に現れた実習生……噂の変態紳士、比企谷八幡先生。彼の姿を見て、あの場にいた生徒たちがざわめく。

八幡「みなさん、はじめまして。比企谷八幡です。この総武高校を3年前に卒業しました。短い付き合いとなりますがよろしく」

都内のW大学の法学部に属するという経歴。普段よりさらに腐った瞳、よどんだオーラ。加えて今は、顔にラケットでつけられた網目の痕……

なるほど、ひそひそと噂されるのも頷ける。ちなみに私は、恥ずかしさと申し訳なさでそれどころではなかった。


「前科はあるんですか~?」

八幡「それはノーコメントで」

……まさかあるのか?

「手鏡で顔を見たほうがいいですよwww」「スカートの中を見通していたとは…www」

八幡「おい、会話文で植えんな、草を」

「尊敬をこめて教授って呼んでいいですか?」「ミラーマン」「スーパーフ○○」

八幡「おいやめろ。……これは誰かの陰謀じゃよ?」



笑いながら八幡に色々な質問を浴びせるクラスメートの一部男子たちと、ヒキ気味に見ているクラスの女子。

その盛り上がりから極力距離を置いて、立てた教科書で顔を隠しながら私は考え事をしていた。
……もろもろの事情で直接顔を合わせることに抵抗がある。

583: ◆WgEe92oiKArO 2013/01/13(日) 18:24:59.83 ID:8bIlHM2s0
あの後、何人かのクラスメートに話しかけられ、メアドを交換した。ようやく、クラスの中に溶け込める、そのきっかけを彼は作ってくれたのかもしれない。だとすれば、小学校時代に続いて、今回もまた、助けられたことになる。

……机の中に指を伸ばす。先ほど借りた、武者小路実篤の本に触れた。

『天に星、地に花、人に愛』

彼が言うと似合わなくて、まるで注意報の文言のようだった。

さっきまでのことを思い出して、校庭を見る。この教室の窓からは、テニスコートは見えない。もちろん、その外れにひっそりと咲いていたタンポポの花も。

天から星が落ちてきて、地の花を踏みそうになって転んだ。あれが注意報なのだとすれば……


麗「大丈夫? もしかして、足が痛いの?」

留美「……あ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、三浦さん」

麗「そっか、無理しないでね。あ、あたしのことは麗でいいよ」

留美「…う、うん。じゃあ、私のことも名前で……」

自由「私も私も!」

二宮さんが、横から入ってきた。

留美「……うん、じゃあ、これからよろしくね///」


一瞬、視線を感じて振り向く。

八幡が、微笑ましいものを見るような目で、こちらをみていた。

八幡「……じゃあ、そろそろ授業を始めるぞ」



……それが、彼と私の再会。比企谷八幡の教育実習は、こうして始まったのだった。

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